『あん』を観た

先頃、話題の映画『あん』を観に行った。そのうち地上波でも放送されるのだろう、しかし我が家にはテレビが無い。

最初は想田和弘監督の観察映画風だな、と感じた。しかし「どら春」の店長、雇い主なのに、なんでこんなにすんなり、どこの馬の骨ともわからないおばあさんをバイトに雇って、叱ることも、仕事を教えることもせず、低姿勢で受け入れてしまうなんて、それこそ現実離れし過ぎというか、「映画だからな」と観ている方も割りきってしまうというか。

と、最初思っていたけれど、この「どら春」の店長(永瀬正敏)が、いきなり現れた徳子さん(樹木希林)を、低姿勢で受け入れてしまえた理由が、じわじわとわかってくる。観ている方も、「だからか」と次第に得心がいく。この「どら春」の店長こそ、首の皮一枚で単身独居の生活困窮者になり得る人である。映画が終わってから、「どら春」の店長って、その後どうすんだろ…などと、物語には無いところではあるが、気がかり感を残す。

そして「どら春」のオーナー(浅田美代子が演じるヒール)の楽しそうなこと。お芝居であれだけ「人間の嫌なカンジ」を出せるということは、役者自身は演じている役とは真逆の考え方をする人だと思う。しかし、大方の人が、あのオーナーを見て、痛いところを突かれた、と感じるに違いない。それがまた、役者にとってたまらん快感ではなかろうか。

ともかく、感じたことは色々あるが、私がこの映画で一番印象に残ったのは、徳子さん(樹木希林)のおともだちの佳子さん(市原節子)登場の場面だった。何ら違和感の無いほわーっとした短い場面で、リアルに旧知の仲らしき二人が、実は初顔合わせというのは、本当に「してやられた」感であった。あますところなく二人の名優のあうんの呼吸で、「だまし」の力量が発揮されたとでも言うべきか。私はうっかり涙腺が緩んでしまったというのに。


「ハンセン療養所を世界遺産に」という目論見()がある。それはなかなか難しい、という反面、いや、審査する人に金払って丁寧にもてなしすればけっこう簡単、という話もある。あのハンセン病のバックには日本財団がついているはず。だから「ハンセン療養所を世界遺産に」するのは、あそこの根回しで何も難しいことはないと、私には思われるのだが、一体、何が目論見を困難にさせているのだろう。
しかし、この度のこの映画で、「ハンセン療養所を世界遺産に」の目論見の周知と啓蒙がタイムリーに進展するかもしれない。

ハンセン病の「隔離と収容」について、正直な話、私はハンセン病ではなくキチガイ()であるが、遠からず近からずの共感がある。だから、「何も知らない」わけでもなく、わかるわけでもないという、そこらあたりが、偏見と排除に突き動かされてきた、まったく病識の無い人々とも若干、受け止め方が異なるかもしれず、そしてまたそれが、本来社会が要請するような作品の感じ方から外れてしまっているかもしれない。
そういうこともあるし、私はこの度この作品について、「障害者・人権ポルノ」の視点は持ち込まないつもりで鑑賞した。


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