ニワカ漁師(あるいは梶子)


この半年ほど失業していたダンナだったが、四月からニワカ漁師としての就業が決まり、「おい地獄さ行ぐんだで!」などと言っている。今はその準備期間中で、ダンナは家にいる時も、首を括れそうな太さのロープで「もやい結び」の練習などをしている。

私も単純なもので、ダンナがそうとなると、海寄りなムードが暮らしの中に増えてくるし、シラスといかなごが最強で、鮭が無くても生きていけるなと思えてくるし。
カラオケでもユーミンの『さまよいの果て波は寄せる』とか『Tropic Of Capricorn』などを選曲したくなるし。あの『Tropic Of Capricorn』を私は、「♪人はみな海流の中の島々」のところを歌いたいばかりに、ずっと歌い続けているんだけども。

さてダンナは、今は家から就業先の漁師の船まで自転車で通っている。四月になると、のり漁が終わって、のり漁の手伝いをしている人と合流し、次は半月近く洋上に出っぱなしになるそうだ。「クソをする時が大変」だと言っているが、大変なのは、クソだけではなかろう。

そんなダンナの話を聞いていると、冥府の境にいるような、なんとも不思議な話が多い。漁師町で、どこからともなく老婆が現れて、岸からロープをキレイに投げてくれたり、遠くから見知らぬ老人がじっと見ていて、「あんた、そんなんじゃぁダメだ…」と、辛いが的確なアドバイスをして去って行ったり、漁師道具を売っている店で、白い長靴を求めているのに黒い長靴を持って来られたり。

しかし、そんな簡単に漁師になんてなれるものか。ニワカとはいえ、いわばダンナは梶子のようなものである。かつての時代、梶子とは今でいう児童労働であるが、それを今は46歳の男性がやるわけである。
まぁ、まずは無事に帰ってくることを、ニワカ漁師の嫁として、私は日々祈ることになる。念彼観音力…。

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